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対談【おクジラ TALK】

vol.1[テキスト前編] 〜 佐々木俊尚 x 佐々木芽生

佐々木芽生 佐々木さん、今日はよろしくお願いします。

佐々木俊尚 こちらこそ、よろしくお願いします。

 

太地町に実際行ってみて

 

佐々木芽生 太地にご一緒いただいて。あの時は本当にありがとうございました。もう、スタッフ扱いして、ドライバーまでさせちゃって。申し訳なかったです。大変助かりました。

佐々木俊尚 とんでもない。刺激的な、興味深い体験でした。なかなか映画の撮影に同行するチャンスってなかったので。初めてだったのですごく面白かったです。

佐々木芽生 行く前と後で、なにか変わりました?

佐々木俊尚 やっぱりね、太地町ってすごい記号化しちゃってるじゃないですか。「捕鯨の町」とか、「世界中から批判されてる鯨の町」とか。一方で、日本国内にはそれを擁護する人たちももちろんいるんだけど、擁護する側もする側で、太地町っていうのは「日本文化の、捕鯨文化の伝統の町」みたいな、ある種の記号化があって。我々がメディアを通して物事を見る時に、どうしても記号で見てしまう、ということが起きる。現場ってそこがすごい大事で、記号を抜き去ったところで、現場を見たときに何が見えてくるかっていうのは、ジャーナリストとしては非常に貴重な仕事なんですよね。

例えば、一番「なるほど」と思ったのは、太地町ってすごい陸の孤島じゃないですか。だから、南紀白浜の方から車で行くと、山を越えないと辿り着かない。太地町だけが、紀伊半島の他の地域から切り離されたような、孤絶した町になっている。「だからこそ、海に出て鯨を捕るしかなかったんだ」みたいな話を、町長さんが仰っていて。田んぼや畑なんて到底作れなさそうな斜面が多くて、農業で飯を食べられない人たちが頑張って漁業だけで生活していく。そういう選択肢の中で生まれてきた土地なんだなっていうことが、実際自分で車を運転して走って、地元のひとの話を聞いて、ようやく分かったかな、って。

佐々木芽生 私がこの映画を撮ろうと最初に思ったのは、『ザ・コーヴ』にすごい衝撃を受けたっていうのきっかけだったんですけど。捕鯨の問題と思って中に入っていったら、全然違うものがどんどん見え始めてきて。自分の何が正しいのか、が分からなくなったり、自分が正しいと思ってたことが全然正しくないっていうのが分かってきたりっていう、その辺が自分の中では揺れ動いてて。

佐々木俊尚 その揺れ動きに期待する人、多いと思います。

 

『ザ・コーヴ』の感想

 

佐々木芽生 『ザ・コーヴ』はご覧になりました?

 

佐々木俊尚 観ました。よくできてるし、立派なドキュメンタリーだと思います。さすがにアカデミー賞取っただけのことはあるけど、ただやっぱり、世界に対峙する視点が一面的、っていうのはあるかな。でも、その一面的な視点ってある意味アメリカっぽいかなっていう感じはしますよね。ポスト近代の時代になっていく中で、相変わらず多様な価値観を認め切れず、一面的な物語に頼ることで欧米の優位性みたいなものを心理的に作り上げようとしている人たちが欧米に一部いるっていう感じはしますよね。

「おクジラさま」に出てくるアメリカ人のジャーナリスト(ジェイ・アラバスター)が言ってることで「なるほど」と思ったのが、シーシェパードはSNSを駆使して、海外のテレビや新聞、マスメディアにバンバンと情報を流し続けてる、と。それに対して太地町は、わずか3000人ぐらいの小さな町で、海外広報なんておけないから何もできないで、情報が全然出てこない。そうすると、メディア戦略という意味で完全に非対象になってしまってる、という話をしてますよね。あれってまさしく、「日本 VS 欧米」とか、そこの問題にもつながるところがあって。

結局、欧米は欧米の伝えたい形で自分たちの文化を伝え、彼らのやり方で、日本文化を消費してるに過ぎないわけですよね。それってまさに(エドワード・)サイードも言ってる「オリエンタルリズム」の話であって、日本人から見ると、彼らが見た「日本」っていうのは、あなたたちが見た「日本」であって、われわれの日本じゃない、というのが常にあるわけじゃないですか。じゃあ、欧米の発信に対抗して、どうやったら日本が自分たちの文化を発信できるのかっていうと、英語が苦手なのもあって、世界中に日本の良さとか日本文化の意味をうまく発信できないでいるっていう状況がある。これは「シーシェパード VS 太地町」と同じ構造になっているのではないかな。それはさらに言うと、『ザ・コーヴ』と、それに対抗的な発信ができない日本のドキュメンタリー映画の非対称性にもつ繋がってくるんじゃないかな。

 

「伝統」に対する考え方の違い

 

佐々木芽生 今作の取材をしていて一番思ったのが、伝統に対する考え方。欧米の人が考えている「伝統」と、日本人が考えている「伝統」って、全く違うんですよね。欧米人にとって、悪い伝統っていうのはどんどん壊していかなきゃいけない。シーシェパードが言ってるように、「奴隷制だったり、切腹だったり、おはぐろっていうのも今の近代社会に合わないので廃止したでしょ?」と。クジラを捕ったり、イルカを捕ったりすることも同じであり、偉大な動物であるクジラやイルカを捕るっていうのは野蛮だ。だから、それは悪い伝統だからやめなさい、と。一方で、日本人にとっては、長く続いてきた「伝統」はできるだけ長く将来に引き継いで、受け継いでいくもの。日本の伝統なんだから干渉しないでください。受け入れてください。あなたの価値観を押し付けないでください、と。

佐々木俊尚 伝統を重んじるっていう気持ちは悪くないと思いますけどね。ただ、何でもかんでも伝統だから、無批判にOKっていうのはもちろんよくなくて、じゃあ、21世紀に生きてる私たちは、「これから生きてくために、自分が大事にしたいものはなんですか」っていうところから考え直すってことが、多分大事なんじゃないのかな。だから、太地町の人たちにとっては、それがしょせん100年しかやってなかろうが300年やっていようが、いま目の前、とりあえずクジラを捕るって行為をしてるわけで。それを継承するのか、少し縮小するのか、あるいは在り方を変えるのか分かんないけど、そこを考えていくことが大事なんじゃないのかな。

佐々木芽生 あと、伝統ってその行為だけじゃなくて、アイデンティティーとか誇り、精神的なものにつながるじゃないですか。だから、例えばアラスカのエスキモーがずっとクジラを捕ってたと。そこに動物愛護の活動家たちが来て、色んなエスキモーのコミュニティーがクジラを捕らなくなる。同じように、カナダのイヌイットがアザラシを捕らなくなった。もちろん替わりの食べ物はいくらでも本国から上がってくるし、他の職業を探せばあるかもしれないけど、失われたモノは、その町のコミュニティーの誇りだったし、アイデンティティーだった。特に、クジラみたいな大きい生き物を捕るっていう行為は。それを奪ったときに、アイデンティティーの喪失じゃないけれども、彼らの生きがいがなくなってしまう。生きる力が失われてしまうっていう。

佐々木俊尚 アメリカでもオーストラリアでも少数民族が土地と仕事を奪われた結果、みんな居留区で一日中酒飲んでジャンクフード食べて、みたいな話を聞きますもんね。

佐々木芽生 そうですね。

佐々木俊尚 やっぱり、民族の誇りって大事なんだっていう。そこの太地町のいさな組合の人たちもやっぱり、顔いいですもんね。誇りを持ってる感じがする。

 

太地町を観光しよう

 

佐々木俊尚 作品をもう一回通して観て、思った。太地町っていい所だな、って。漁港スーパーとか。あそこでクジラ肉を買って帰って、家で食べましたよ。

佐々木芽生 何クジラですか?ゴンドウ?マゴンドウかな。

佐々木俊尚 ゴンドウクジラ。切り身と、つくだ煮も買って、食べて、しみじみ味わいました。あと、山を登った所に見晴台があるじゃないですか。あそこの景色の気持ちよさとか、至る所にいい所があったな、ってのをしみじみ思ったので。この映画を見て興味を持ったら、ぜひ旅行に行ってほしいな。

最近、インバウンドの外国人観光客がすごく増えていて、みんな聞くことが「外国人観光客がいない所を教えてくれ」と。そういう秘境好きな人が「捕鯨の町」のダークツーリズム的な気持ちで、太地町へ行って、「お、ここが『ザ・コーヴ』の浜か」とみんなで記念撮影するとかいいんじゃないか。そういった中から、単純に「捕鯨はけしからん」っていう人だけじゃなくて、「太地町っていい所だし、町の人もいい人たちだな」って理解してくれる人が増えてくるんじゃないかな。そうすると、あの町ももう少し外に向かって開かれて、変に緊張しないで、外部と交流できるようなきっかけにもなるんじゃないかなと思いますけどね。

佐々木芽生 そうですね。本当に仕方がないことかなとは思うんですけれども、町の人たちも外国人を見ただけでアレルギー反応になってしまっていますし、警察官がずっといて、外国人だとパスポートを見せたりしなきゃいけない。

佐々木俊尚 なるほど、職務質問してるんですね。

佐々木芽生 全員、名前とパスポート番号控えられる、みたいな状況。そういうところが外国人にとっても行きづらい状況になっちゃってるのかなって思います。

 

後編につづく